2021年1月15日、WHO(世界保健機関)は、緊急委員会を開いて、各国で確認されている新型コロナウイルスの「変異ウイルス」への対策として、「変異ウイルス」の遺伝子配列解析を強化するよう呼びかけました。一方、入国者に新型ウイルスのワクチン接種証明の提示を義務付けることに反対する立場を表明しました。また、富裕国が、ワクチン買い占める懸念を受けて、100日後までに、全ての国で、ワクチン接種を始めることを表明。
「変異ウイルス」に関しては、欧米や南米、アフリカの一部での感染者の急増に影響を与えていると指摘。一方で、感染の連鎖を断ち切れなかったとも推察している。
「変異ウイルス」の特定方法は、遺伝子配列の解析だけだが、それができるのは、一部の国に限られる。WHOは、「変異ウイルスについて、遺伝子配列の特定とデータ共有の世界的拡大に加え、重大な未知の事態に対処するためのより一層の科学的協力を求めた」と発表。緊急委員会はさらにWHOに対し、風評被害を防ぐため、新たな変異ウイルスについて地理的・政治的に中立な命名法を考案するよう要請。
2021年1月6日、国立感染症研究所は、1月2日にブラジルから到着した渡航者4名から新型コロナウイルスの新規変異ウイルスを検出しました。その変異ウイルスは、突起部分の変異も認められました。
「変異ウイルス」の「突起(スパイク)」部分が、変異しているとすると、ワクチンの効き目は、格段に低下するものと思われます。そうした変異が起きると、「変異ウイルス」が、出現する度に、ワクチンを開発・接種する必要があるかも知れません。もっとも、治療薬の開発が進めば、仮に「変異ウイルス」に感染しても、治療は可能だと思われます。
東北大学加齢医学研究所 生体防御学分野 西井慧美助教、薬学研究科 小菅将斗大学院生らは、新型コロナウイルスのゲノム7804種類を解析した。その結果、変異ウイルスは、ウラシル(U)への点変異が突出して多いことを発見した。この変異には特徴的な点があり、ヒト由来のRNA編集酵素による変異が多いと考えられた。そこで、日本型を含む4種類の変異型ウイルスゲノムから変異部分を人工合成したRNAを用いて、ヒトマクロファージ細胞株に疑似感染させた。すると、自然免疫を担う炎症性サイトカインの産生が増強した。これは、新型コロナウイルスは、ウイルスを排除しようとする生体防御機構を利用して、変異を続けていると考えられる。
英国の科学者による新型コロナウイルスのゲノム解析プロジェクト「COG-UK」のメンバーであるニック・ローマン氏らは、英国ケント州で、新型コロナウイルスの患者が急増した原因の解明に乗り出した。通常、ウイルスの変異は、複製時に月1~2個のペースで発生するが、ケント州の多数の患者から、合計23個も変異のあるウイルスが、採取された。
その後の調査で、その変異ウイルスが増えたのは、ケント州周辺で感染者が急増時期と一致していた。初めて採取されたのが、9月20日だったことが分かり、11月中旬には、感染者の20~30%が、この変異ウイルスに感染し、3週間後には、約60%に増えた。
この変異が生じた詳細は不明だが、回復期血漿の投与といった実験的な治療が影響しているのではないかという仮説がある。英ケンブリッジ大学のウイルス学者ラビンドラ・グプタ氏は、「慢性的に感染が続く人々の中には、ウイルスがかなり大きく変化する場合があります」と話した。つまり、新型コロナウイルスの治療により、変異ウイルスが発生していた可能性があるのだ。
新型コロナウイルスの致死率と感染症の図です。