2020年12月11日、エディンバラ大学などのグループが、新型コロナウイルスに感染すると重症化する主要な遺伝子を、5つ特定した。英国内の208カ所の集中治療室(ICU)で、2,700人のコロナ患者のDNAを調べたところ、「IFNAR2」「TYK2」「OAS1」「DPP9」「CCR2」の5つの遺伝子が、関係していることが分かった。また、コンピューター解析で、抗ウイルス作用のある物質に関わる「TYK2」と免疫を調整するインターフェロンというたんぱく質に関わる「CCR2」に的を絞り込んだ。
共同研究責任者のエディンバラ大学のケネス・ベイリー氏は、「『TYK2』の活性化を抑える医薬品はすでに複数存在している」と説明。関節リウマチなどの慢性疾患の治療薬と知られる「JAK阻害剤」などである。また、「CCR2」のたんぱく質を阻害する抗体治療も、臨床試験段階にきていると説明。新型コロナウイルスの重症患者への有効性を調べる治験の実施をすべきと指摘している。
英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授(熊本大学国際先端医学研究機構客員准教授)と熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター佐藤賢文教授の共同研究グループは、新型コロナウイルス感染症患者の肺組織のT細胞を対象とした遺伝子解析を実施することにより、重症化に特徴的なT細胞の異常を発見した。新型コロナウイルスの重症患者では、このT細胞に内在するブレーキが働かなくなった結果、T細胞が過剰に反応し、重症化を引き起こしている可能性を明らかにした。
グループは、最先端のバイオインフォマティクス解析技術を用いて、重症化肺炎患者の肺組織を調べた。その結果、T細胞が顕著な活性化を示している一方で、「FoxP3」の誘導が阻害されており、T細胞の反応を止めるブレーキ機能に異常があることを突き止めた。すなわち、ブレーキ機能が低下することにより、あまりにも多くのT細胞が過剰反応し、新型コロナウイルス感染症患者の肺炎が重症化している可能性が明らかにされた。
結論から言うと、新型コロナウイルスによって、「重症化する遺伝子」=「コア・ハプロタイプ」を持っている人がいるそうです。南アジア系の人が多く、特にバングラデシュ人の60%以上が保有しているそうです。一方、欧米人は20%弱で、アフリカ系と東アジア人はほとんど保有していません。
ヒトの3番染色体の「SLC6A20、LZTFL1、FYCO1、CXCR6、XCR1、CCR1、CCR3、CCR9」といった多くの遺伝子のある領域の一塩基多型(SNP)のリスクタイプを有すると、重症化するリスクが、2倍ほど高くなることが明らかになりました。ペーボ博士が、Nature誌で報告しました。ペーボ博士は、ホモサピエンスとネアンデルタール人が交雑してしたことを明らかにした方です。
重症化する遺伝子は、ネアンデルタール人から受け継がれたようです。そして、ペーボ博士らは、2つの特徴に注目しました。
そして、実は、こうした特徴は、ネアンデルタール人からホモサピエンスに受け継がれた可能性が高いのです。
「ハプロタイプ」とは、1つの染色体上にあるDNA配列を指します。世代を経るごとに、「ハプロタイプ」は、組み換えにより、断片化していきます。したがって、この「ハプロタイプ」が、長期間にわたり、存在するということは、それだけ組み換えが起きていなかった証拠でもあります。
父方に「ハプロタイプ」があった場合、上図の「子3」は、組み換えが起きて、「ハプロタイプ」が短くなっています。その為、段々と、重症化するリスクは軽減していきます。
ホモサピエンスとネアンデルタール人は、約55万年前に、共通祖先から分岐したと考えられています。ここで、「コア・ハプロタイプ」に関して、2つの可能性が考えられます。
研究により、後者の可能性が非常に高いことが分かりました。つまり、ネアンデルタール人とホモサピエンスが、交雑した結果、ホモサピエンスに受け継がれたのです。
バングラデシュでは、かつて何かしらの病原体が蔓延した際に、この「コア・ハプロタイプ」のおかげで、生き残った可能性があると指摘されています。その時、他の地域、特に「コア・ハプロタイプ」を持たない、東アジア人は、存亡の機にあった可能性もあるのです。このように、ヒトは、感染症とともに進化してきたと言えます。そして、今現在、私たちは、まさに新型コロナウイルスの選択下に置かれているのです。
2020年9月18日、北海道大学と米ハーバード大学の共同研究グループは、新型コロナウイルスの感染に関わる7つの遺伝子の配列やたんぱく質の構造をデータベースで比較・調査した結果、地域・民族間の遺伝子の差異が、新型コロナウイルスの重症化リスクに影響しないと結論付けた。
米国では、アフリカ系やラテン系の患者の死亡率が、多人種よりも高いことが分かっている。しかし、それは、遺伝子の差異によるものではなく、個人の年齢や病歴、環境要因、社会格差によるものだとしている。