新型コロナウイルスの治療薬には、多くの既存薬が転用されます。例えば、侵入段階には、膵炎(すいえん)の治療薬「フサン」、複製段階には、新型インフルエンザの治療薬「アビガン」とエボラ出血熱の治療薬「ベクルリー(レムデシビル)、増殖段階には、HIV(エイズウイルス)の治療薬「カレトラ」などがあります。また、リウマチの治療薬「アクテムラ」は、過剰な炎症物質の働きを抑えることが分かっています。さらに、ぜんそくのステロイド薬「オルベスコ」は、免疫を抑えて症状を安定させます。寄生虫薬「イベルメクチン」、マラリア薬「クロロキン」、自己免疫疾患治療薬「ヒドロキシクロロキン」も、ウイルスを減少させる効果が、報告されています。
以下のような薬剤が、主に国内で使用されています。
日本では2020年5月、厚生労働省が新型コロナウイルスの重症患者を対象に特例承認しました。2020年11月、WHOが、レムデシビルの使用を推奨しないとのガイドラインを公表しましたが、日本政府は、承認を見直すことはしませんでした。2021年1月には、添付文書が改訂され、中等症の患者にも投与できるようになりました。
厚生労働省は7日、抗ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認した。米製薬大手ギリアド・サイエンシズが開発した薬で、国内で初の新型コロナ治療薬となる。審査期間を短くする特例で承認し、原則、重症患者に投与する。
日本経済新聞
重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬です。英国の臨床研究で重症患者の死亡を減少させ、厚生労働省の「診療の手引き」にレムデシビルとともに標準的な治療法として掲載されています。
厚生労働省は抗炎症薬「デキサメタゾン」を新型コロナウイルス感染症の治療薬として認定した。すでに広く使われている医薬品で、英国でコロナの重症患者の死亡率を下げる研究結果が出ていた。5月に特例で承認した「レムデシビル」に続き、国内で2例目の正式なコロナ治療薬となる。デキサメタゾンは様々な疾患に利用されるステロイド薬で、国内では肺疾患や感染症などで効果が認められている。すでに保険適用され日医工などが後発薬を製造しており、低価格で手に入りやすい。
日本経済新聞
2021年5月10日、関節リウマチなどの治療薬で炎症を抑える効果がある薬「バリシチニブ」が、新型コロナウイルスの3例目の治療薬として承認され、製薬企業では「今年度、4500人から6000人程度の患者への使用を想定している」としています。「バリシチニブ」は免疫の異常反応による炎症を抑える効果があり、関節リウマチやアトピー性皮膚炎の治療薬としてすでに使われています。
NHK
2014年、抗インフルエンザウイルス薬として、日本で承認されています。新型インフルエンザが発生した時にしか使えないので、市場に流通していませんが、国が備蓄しています。2020年10月、富士フイルム富山化学が、新型コロナウイルス感染症への適応拡大申請をしましたが、同12月、承認を見送られました。
抗インフルエンザ薬「アビガン」を新型コロナ治療薬として国に承認してもらうため、製造元の富士フイルム富山化学は21日、国内で再び臨床試験(治験)を始めたと発表した。昨年秋に承認を申請したが、厚生労働省の専門部会は治験の手法の問題などから「有効性の判断は困難」などとして継続審議としており、再治験して承認につなげたい考えだ。治験の対象は、国内の50歳以上の男女316人。発熱など症状が出たばかりの軽症者で、基礎疾患があるなど重症化リスクがある患者が対象だ。今月から治験を始め、10月末まで有効性や安全性を調べる。
朝日新聞
東京大附属病院などで、臨床試験中です。
北里大神医師主導治験を行っています。
英政府は、2021年1月7日、関節リウマチの治療薬「トシリズマブ」と「サリルマブ」が新型コロナウイルスの治療に有効であると発表した。トシリズマブは、岸本忠三・元大阪大学長と中外製薬が開発し、「アクテムラ」の商品名で知られる薬です。英政府が支援した臨床研究では、集中治療室の患者に対して抗炎症薬「デキサメタゾン」の投与など通常の治療をした場合の死亡率は35・8%だったのに対し、搬送から24時間以内にトシリズマブなども追加で使った場合は27・3%まで低下しました。この結果、二つの薬を追加で投与した場合に死亡リスクが24%下がると結論づけられ、患者が集中治療室に入る期間も7~10日間短縮できたと言います。英国では今後、集中治療室に運ばれた患者に対して使用することにしています。
読売新聞