「主体的、対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を掲げて、新学習指導要領では、科目の大幅再編が行われます。具体的には、「情報Ⅰ」「公共」「歴史総合」「地理総合」「保健体育」などを新設し必修としました。ここでは、それらの新科目のポイントについて概説します。「ネットリテラシー」「北方領土・竹島・尖閣諸島」「欅坂46」「ハザードマップ」「精神疾患・ゲーム障害」「ジェンダー・LGBT」などに言及しています。
現在は、プログラミングを学ぶのは、2割ほどですが、新科目では、「プログラミング」と「データ活用」などが、必修になりました。
プログラミングの単元では、コンピューターに繰り返しの計算をさせることを実習します。特に、「python(パイソン)」をプログラミング言語に採用するようです。
データ活用の単元では、ネット通販の購入履歴やスマホの閲覧履歴などのビッグデータの活用の必要性を紹介しています。
トイレや非常口を表す絵文字「ピクトグラム」などの情報デザインも学びます。
「ネットリテラシー」「フェイクニュース」「ファクトチェック」などにも触れられている教科書も多くあります。
社会参加に向けての知識や現状を理解し、社会問題を解決することを主眼に置いています。
選挙権年齢が18歳に引き下げられることを受けて、政治や経済、社会問題に関して、生徒同士で議論するようになります。具体的には、細川内閣、自民党と公明党の連立政権、イギリスやドイツの例などを取り上げて、どのような政権のあり方が、好ましいかを考えさせます。また、報道や街頭演説、マニフェストなどから、実際の投票に際しての意思決定の流れを学びます。
北方領土と竹島、尖閣諸島を「固有の領土」として、尖閣諸島に関しては「領土問題は存在しない」と明記されました。
各国の労働状況から「ワークライフバランス」を実現する方法を学びます。
安楽死や尊厳死を認めるべきか否かという観点から、生命倫理について議論します。
新型コロナウイルスの感染拡大時のSNSの誤情報により、店頭のトイレットペーパーなどが品薄になったことを取り上げています。また、緊急事態宣言によって、外出自粛要請や、飲食店や映画館などへの休業要請などが出されたことを紹介しています。
近現代の日本史と世界史を関連付けて、合わせて学びます。資料を多用して、質問形式で、話し合いや考察を実現するようになっています。
新型コロナウイルスが、14世紀のペストや第一次世界大戦中のスペイン風邪と共に紹介されて、空港でサーモグラフィーで発熱を調べることも記載されています。
韓国、日本、台湾出身の女性アイドルで構成される「TWICE」を取り上げ、植民地支配などの歴史認識をめぐる対話と葛藤を表現して、大衆文化を通じて、世界の人々との相互理解を深めることを求めています。
アイドルグループ欅坂46の写真と「サイレントマジョリティー」の歌詞の一部を用いて、民主主義を考えさせる工夫もあります。「声をあげないことは賛成しているのと同じ」であったり、意思表示しないで「大衆」であることに疑問を投げかけています。
「この世界の片隅に」や「火垂るの墓」などの映画を取り上げる教科書もあり、戦争の残したものを学ばせます。
現代の地理的な問題を学びます。
自然災害に対応したハザードマップや、過去現在の地理情報を収集して読み取る訓練をしたり、その知識をもとに災害に強い都市計画を立てさせたりします。具体的には、旅先で地震に遭った時の「災害想像力ゲーム」などを通して、避難場所や経路を考えます。
東日本大震災の津波や、ゲリラ豪雨の雨雲などの写真が掲載されています。
災害に備えて、懐中電灯や衣料、軍手などをリュックサックに入れておき、家の家具を固定することなども指導します。
40年ぶりに精神疾患について扱うことになり、運動・食事・睡眠の調和を取り、心身の不調に気付く重要性、それに予防や回復について学びます。
「ゲーム障害」も、誰でもかかりうる精神疾患の一つとして言及されています。
うつ病や摂食障害、それに統合失調症などに関しても、学びます。
精神疾患に対する差別や偏見は、患者だけでなく、自らの不調に気付くのが遅れることもあり、正しい知識を身に付け、多様性を重んじることが必要だという内容になっています。
教科 | 科目 |
---|---|
国語 | 現代の国語 言語文化 |
地理歴史 | 地理総合 歴史総合 地図 |
公民 | 公共 |
数学 | 数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学A |
理科 | 科学と人間生活 物理基礎 科学基礎 生物基礎 地学基礎 |
保健体育 | 保健体育 |
芸術 | 音楽Ⅰ 美術Ⅰ 工芸Ⅰ 書道Ⅰ |
外国語 | 英語コミュニケーションⅠ 論理・表現Ⅰ |
家庭 | 家庭基礎 家庭総合 |
理数 | 理数探求基礎 |
情報 | 情報Ⅰ |
今回の改訂では、「知識偏重」を是正して、対話を重視する方向になっています。その一つの方策として、新しい教科書では、「答えのない問題」を扱うことになりました。ただし、これが曲者で、しっかりとフォローしないと、変な考えを植え込んでしまいます。
「AIの自動運転車が、対向車との衝突を回避しようとして、歩行者をはねたら、どうするか?」という問題があります。これを高校生に議論させる訳ですが、AIの自動運転車が、そんなことで歩行者をはねる可能性はあるのでしょうか。答えは、歩道に突っ込むことではなく、停車することだと思います。あるいは、後方の安全を確かめて、バックするか。AIの自動運転車への偏見をはらんでいるので、しっかりとフォローする必要があるでしょう。
「『臓器くじ』を作って、抽選に当たった人は、健康でも臓器を提供して、臓器提供を待つ五人を救う。それが、正しいと言えるか?」といった問題もあります。卒倒するような内容ですが、そんな古い議論をするくらいなら、iPS細胞で臓器を作る話でもした方が良いのではないでしょうか。